中小企業のためのパーパス経営
-理念を実装する新しい経営軸-
-理念を実装する新しい経営軸-
企業が「何のために存在するのか(パーパス)」を定め、戦略・人材・組織運営に浸透させるパーパス経営が注目されています。
パーパス経営というと、大企業が取り組むテーマと考えられがちですが、実は理念を経営に実装する手段として中小企業でも有効に活用できます。以下のレポートはあるリサーチ会社に私が寄稿したものですが皆さまのお役に立てば幸いです。参考にしてください。
1.はじめに:なぜ今「パーパス経営」なのか
企業の存在意義(パーパス)を明確にし、それを経営の軸に据えるパーパス経営が注目を集めている。SDGsや人的資本経営、地域共生といった社会的潮流が進展する中、企業には単なる利益追求ではなく、社会や地域への価値提供が求められている。中小企業も例外ではない。むしろ地域に根差し、社員や顧客との距離が近い中小企業こそ、パーパスを明確にすることで経営の一貫性を高め、採用・定着・取引先との信頼関係を強化できる。また補助金や支援制度はパーパスを実現するための「梃(てこ)」であり、目的ではなく理念を具現化するための手段として活用することが望ましい。
2.パーパスとは何か ― 理念・ミッション・ビジョンとの関係
パーパスを理解するうえで、経営理念・ミッション・ビジョンとの関係を整理する必要がある。従来の理念やビジョンは、経営者の想いを示すにとどまり、社員や社会と共有されにくい面があった。パーパスはそれらを「社会的意義」として結び直す役割を担う。つまり、経営理念が「社内の価値観」であるのに対し、パーパスは「社会との約束」を意味する。
下の図表は、パーパスを基盤とするピラミッド構造を示している。パーパスが企業の存在意義を定め、それを基に理念が価値観を形成し、ミッションが行動目的を具体化し、最終的にビジョンが将来像を描くという関係である。
パーパスと理念・ミッション・ビジョンの関係(イメージ)
3.中小企業にとっての「パーパス経営」の意義
パーパス経営とは、企業が「何のために存在するのか」という存在意義を明確にして、それを経営戦略や組織運営の行動原理として具現化する考え方である。大企業では、環境や社会との共生を重視するESG経営やSDGsへの対応、人材の採用や投資家との対話において、すでにパーパス経営が定着しつつある。 一方で中小企業にとっても、その意義は決して小さくない。
中小企業こそ、経営者の想いが企業文化に直結し、社員や地域社会との距離が近いため、パーパスを明確にすることで以下のようなプラス効果が期待できる。
● 経営の一貫性が高まり、判断基準が明確になる。
● 社員の共感や誇りを生み出し、採用・定着につながる。
● 地域社会や取引先との信頼関係を強化できる。
● 事業計画や補助金申請において「社会的意義」を説明しやすくなる。
このように、パーパス経営は中小企業にとっても「経営理念を行動に変える羅針盤」であり、経営の持続性と社会的信頼を高める重要な基盤となる。
4.中小企業における「パーパス経営」の導入ステップ
中小企業がパーパス経営を実践するには、段階的に考えることが有効である。多くの中小企業では、「理念はあるが浸透していない」、「事業活動に理念が活かされていない」などの課題がある。経営者の想いを言語化し、それを経営計画に反映させることで、パーパスが日常の意思決定に根づくようになる。特にSTEP2とSTEP3は、経営革新計画や補助金申請書の策定プロセスとも親和性が高く、既存の経営管理ツールにパーパスを埋め込む出発点となる。
<パーパス経営の導入ステップ>
STEP1 原点の棚卸し
創業時の想い、地域との関係性を整理
STEP2 パーパスの言語化
社会・顧客への貢献目的を明文化
STEP3 方針・事業計画への反映
パーパスを経営方針や事業計画に反映
STEP4 社内への浸透
社員と共有し、行動規範に落とし込む
STEP5 社外発信と実践
パーパスに則した企業活動を実践、積極的に発信
5.導入のメリットと課題
パーパス経営には多くのプラス効果がある一方で、留意すべき課題も存在する。パーパス経営は、経営者が一方的に掲げる理念ではなく「社員や地域との共感形成」を通じて真価を発揮する。そのため、導入初期には社内対話の時間を確保し、社員自らがパーパスを語れる状態にすることが重要である。社内外での理解が進まない場合もあり、経営者の強い意志と時間を要する。
<パーパス経営のメリットと課題>
経営面
メリット 意思決定の一貫性を高め、戦略判断を迅速化できる
課題 抽象的になりすぎると実行力を欠く
人材面
メリット 共感を軸に社員の採用や定着が促進される
課題 社内対話が不可欠で浸透には時間がかかる
事業展開
メリット 企業への期待が高まり、ブランドイメージが向上する
課題 パーパスと企業活動が乖離すると理念倒れのリスクがある
6.中小企業白書にみる「パーパス経営」的実践の潮流
中小企業白書では近年、「社会的価値の創出」や「地域課題の解決」を軸に事業を展開する企業の事例が多数紹介されている。これらの企業は明確にパーパス経営という言葉を用いてはいないものの、その経営実態はまさにパーパスを核とした実装経営にほかならない。たとえば、脱炭素・GX分野で設備更新を通じて地域環境への貢献を明確化する企業、伝統技術の再活用や修理・再生ビジネスを通じて資源循環と職人技の継承を両立させる企業、AIやデジタル技術を活用して労働安全や地域インフラ維持に貢献する企業など、分野こそ異なるが共通して「社会的使命を明文化し、それを事業構造と結びつけている」という特徴がある。
こうした多様な事例は業種・規模を問わず共通する視点を持っており、そこには次のような特徴が見られる。白書で示された複数の事例を俯瞰すると、これらの企業に共通するパターンは次の3点に整理できる。
① 社会課題の明確化と自社の立ち位置の定義
地域や業界が抱える環境・人材・高齢化・廃棄・防災といった課題を自社の強みと結び付け、事業目的を「社会的意義」として再定義している。
② パーパスに基づく組織文化の再構築
経営者が掲げる価値観を、社員一人ひとりが自らの仕事の意味として理解し、行動に落とし込んでいる。中小企業の規模だからこそ、トップのメッセージが組織全体に素早く浸透している。
③ パーパスと経営資源の連動
設備投資、技術開発、人材育成、地域連携などの具体的施策が、単なる収益改善策ではなく「パーパスを実現する手段」として体系化されている。補助金や制度認定もその延長線上に位置づけられている。
これらの企業群はいずれも、社会との共感を資本に変える経営を実践しており、自社の存在意義を軸に戦略を構築する点で共通している。言い換えれば、中小企業白書が描く先進事例は、「利益のために社会を利用する企業」から「社会価値を創ることで利益を得る企業」への転換を示している。
このような潮流は、パーパス経営が中小企業においても単なる理念ではなく、実践的な経営手法として定着しつつあることを意味している。
出所:経済産業省「中小企業白書」「小規模企業白書」(2023~2025年版)をもとに筆者整理
7.まとめ:パーパスがもたらす中小企業のアイデンティティ
パーパス経営は、企業が社会と共に生きる理由を明確にする営みである。経営理念やビジョンを超えて、自社の存在理由を社会的価値として表現することが、中小企業が「社会にとって欠くべからざる存在」として認められるためのアイデンティティを形成する。補助金や支援制度は、その理念を実装へと導く「梃」であり、目的ではない。経営者が自らの想いをパーパスとして再定義し、組織文化に根付かせることこそ、共感資本―すなわち、社会・顧客・社員からの信頼と支持―を高め、持続的成長を実現する鍵である。