日本では高齢化が進展し、定年後も働くことが一般的になってきている。内閣府の調査によれば、2022年に、60~64歳の就業率は73.0%、65~69歳でも50.8%(図表6-5-1)で、高齢になっても働くシニアは増加の一途をたどっている。
皆さんは、定年後の働き方に期待や不安を抱くことはないであろうか。定年延長や再雇用制度によって、シニアが働ける環境は徐々に整ってきている一方で、「生きがい」や「やりがい」を持って働くことが課題となっている。私自身もやりがいを持って働くため、定年を「機会」として捉えてキャリアの再構築にチャレンジすることにした。
定年を迎えるにあたり、私は自分のキャリアを見直し、やりがいを持って働ける道を探った。会社員として蓄積した知識と経験を中小企業支援に役立てることを目指し、中小企業診断士(以下、診断士)の資格取得を決意した。働く目的を定めその目的に向けて課題に取り組むことで、仕事に対する充実感が得られる。私は、以下の課題をクリアしながらキャリア再構築を行った。
① キャリアビジョンの設定
まずは、定年後をどう生きたいのか、定年後働く目的は何かについて考えた。定年後にどのように生き、何のために働くのか-その答えを見つけることがやりがいのある仕事につながると考えたからである。 私は、長年働いた大企業での経験、スキルを活かし、中小企業の経営を支援することを通じて社会に貢献することを新たな目標にした。
② モチベーションの維持・向上
定年後、働く環境や仕事の内容が変わっても、やりがいを持って働きたい。そのため、これからは本気で、会社のためではなく、社会のために働こうと気持ちを切り替えた。いままでの経験を活かしながら地域社会への貢献や自己成長を目指すことで前向きな気持ちを持ち続けられると考えた。
③ キャリア形成に向けたリスキリング
大企業で特定分野の経験を積んできたが、定年後もそのスキルをそのまま活かせるとは限らない。経理・財務、経営企画、事業企画、広報など、さまざまな分野を経験したものの、それぞれの知識やスキルはつながっていないし、錆びついているスキルの補強も必要であった。キャリアビジョンを実現するために、いままでの知識とスキルの体系化を図るとともに、足りないところは研究会への参加、講座・セミナー受講などのリスキリングで補強した。
④ 経験やスキルの見える化
多くのシニアが再雇用や再就職を目指しているが、新たな仕事を得るには、自分の経験やスキルを明確に表現することが必要である。私はスキルの見える化を目的として何度も履歴書や職務経歴書を書き直して、自分の強みを再発見する過程を繰り返し、自分が社会に貢献できるのは何なのかを考えた。
⑤ 人脈拡大とコミュニティ形成
私は43年間同じ会社で働いていたため、ほとんどの人的ネットワークは社内に限られていた。新たな仕事の機会を得るために、新しい出会いを生むコミュニティに参加し、社外の人脈を拡大しようと心に決めた。
こうしたキャリア再構築に向け、定年の前年に診断士資格の取得を決意した。その後、7年かけて資格を取得し、再就職や副業につなげた。1次試験申込者に占める60歳以上の構成比は、2012年の4.1%から2024年には7.6%へと上昇しており、資格取得にチャレンジするシニアは年々増加している。
診断士資格の取得自体のメリットは大きいが、資格取得のための受験準備で学んだことも多い。資格取得に挑戦したことで、定年後も社会で価値を発揮し続ける力と自信を獲得した。診断士試験受験と診断士資格活用の2つのフェーズで得られたメリットは以下のとおりである。
① 診断士試験受験で得たもの
a. 知識のアップデートとビジネス視点の強化
自分のスキルを棚卸しして、どのようなリスキリングが必要かを自己評価した。診断士の1次試験は、「経済学・経済政策」、「財務・会計」、「企業経営理論」、「運営管理」、「経営法務」、「経営情報システム」、「中小企業経営・中小企業政策」の7科目で構成され、経営に必要なオールラウンドの知識を習得することが求められる。会社員時代に経験しなかった分野の知識も習得してスキルを補強するとともに、企業経営の視点から仕事をする基盤づくりができた。
b. 知的刺激による生活の充実
会社の中では経験豊富なベテランとなり、新しい経験で知的刺激を受ける場面は減ってきていた。診断士資格という知的な挑戦をすることにより、自己成長や生涯学習の満足感が得られ、脳の活性化や健康維持にもプラスの効果を実感できた。
c. 探求心を高め、キャリア開拓への意欲向上
診断士資格への挑戦は明確な目標設定になるため、自然と計画的な学習や挑戦意欲を維持するようになる。会社では第四コーナーを回り目標を失いがちなシニアにとって、診断士試験は働き方の新たなゴールを提供してくれた。
② 診断士資格活用で得たもの
a. 再雇用・再就職での競争力強化
診断士資格は広範な知識とビジネススキルを公的に証明するものであり、再雇用や再就職の際の競争力強化に役立つ。仕事の選択肢が増えることにより、いままでとは異なる視点で企業や社会に貢献できる喜びを味わうことができた。
私は2023年から愛媛県の建設業S社の顧問を務めている。S社は2代目への事業承継を機に経営革新に取り組んでおり、私は幹部会議に毎月出席して経営幹部と議論を交わしている。顧問先からは、豊富な経験や戦略的な視点からの助言や提案は、経営の基盤を整備している当社にとって有益であるとの評価をいただいている。
b. 独立・開業の機会獲得
診断士資格をベースに独立・開業することが可能になる。現在のところ、副業としての対応が中心であるが、先々は専門家登録を行って公的機関などを通じて経営支援したり、個人事業として経営のアドバイスを提供したりするなど、独立・開業も視野に入れている。
c. 生涯現役への基盤づくり
資格取得後は、いままで接点がなかった業界や職種の人たちとのネットワーキングの機会が増えた。診断士協会などのさまざまなコミュニティに参加し、生涯現役に向けた基盤づくりに取り組んでいる。
定年を過ぎても、診断士資格の取得を目指したことで知識やスキルのアップデートができ、資格取得後にはキャリアの機会が拡がった。独立・開業して生涯現役を貫くことも夢ではない。しかし、私は今はまだ診断士としては新米である。これからさらに研鑽を重ね、キャリアを積んでいきたいと考えている。
人口の約3割が65歳以上のシニアになり、再就職や独立・開業などを通じて元気に働くシニアが増えている。経験豊富なシニアがやりがいを持って働くためのテコとして機能するのではないだろうか。
また、折角貴重な時間を試験対策に使うのだから、勉強は試験だけのためだけではなく、自分のキャリア発展に向けた投資と考えたい。努力は裏切らない。厳しい鍛錬は人脈の拡大や新たなキャリアの構築などを通じてやりがいのある働き方を可能にし、さらには社会貢献と自己実現につながるはずである。