「事業承継」という言葉を聞くと、多くの経営者は相続、資金、後継者育成といった難しい課題を思い浮かべるかもしれません。確かに、経営を次世代に引き継ぐことは一筋縄ではいかず、現経営者にとっても後継者にとっても心理的・実務的な負担が大きいテーマです。
しかし、私は中小企業の経営相談や伴走支援を通じて、「事業承継をきっかけに企業が大きく変わり、成長軌道に乗った」ケースを数多く見てきました。事業承継は「危機」ではなく「飛躍へのチャンス」なのです。
たとえば、愛媛県の建設業S社では、二代目経営者が先代からのバトンを受け取り、経営理念の見直しからスタートしました。長年の信頼と技術力を活かしつつ、「最高のエンジニアリングパートナー」を目指して中期経営計画を策定し変革に取り組み、先代が築いた基盤のうえで更なる高みに挑戦しています。社員も果敢に変化を受け入れ、会社全体が前向きなエネルギーに包まれています。
また、大分県の木工業K社では、「地域に選ばれる木工所」を目指して新たなブランドづくりを推進。新たな企業ブランドの開発や新機軸のパンフレット制作など、先代が手をつけられなかった広報・マーケティング分野に挑戦しています。
これらの企業に共通しているのは、「承継を守りではなく、攻めの機会ととらえている」点です。
事業承継は単に代表者を交代させることではなく、企業のDNAを未来へどうつなぎ、どう発展させるかを考えるプロセスでもあります。先代の理念や社風の中で大切にすべきものを残しつつ、時代の変化に合わない部分を見直す勇気が必要です。承継のタイミングは、経営を「再定義」する絶好のチャンスなのです。
もちろん、変革には葛藤も伴います。先代の想いや社員の価値観が強く残る企業では、変化が拒まれることも少なくありません。そこにこそ、外部の支援者の役割があります。私たちのような中小企業診断士や顧問は、第三者の視点から「変えない部分」と「変える部分」を整理し、理念再構築・中期経営計画策定・人材育成・広報DXといった具体策を一緒に描くことができます。外部との対話が、社内の意識を前向きに変えるきっかけになるのです。
これからの時代、事業承継を「防衛線」ではなく「成長戦略」としてとらえる企業こそが、次の10年を生き抜く力を持つと感じます。
先代が守ってきたものを受け継ぎながら、次代が新しい価値を創り出す。その橋渡しの瞬間こそ、企業にとって最も創造的で、最も希望に満ちた時間なのかもしれません。